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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]知財力(武器)強化戦略と知財ミックス

2022年07月11日

第1 知財力強化と知財ミックスの思考法

1.知財力強化の目的
 企業の知財力強化の目的は,第一は社内の発明等の技術・デザイン・ブランドの保護強化,第二は他社からの攻撃を阻止するためのリスク回避対策強化,第三は権利の活用による積極的な知財力強化(武器化)による収益力向上にある。
 このような目的を達成するためには,前記のように単なる権利化を目的とした量的出願を行うのではなく,経営戦略や事業戦略を十分に理解及び認識したうえで権利化のための事前戦略や権利化後の活用戦略を予め検討することが必要不可欠である。

 

2.先発企業と知財力強化
 ある分野で画期的な発明やデザイン創作した先発企業が単なる権利化のみを目的として出願した結果,後日,後発企業が同種又は接近した製品や商品を市場に販売し,その結果コスト競争で先発が敗れるケースが多々ある。
 これは先発企業の権利が設計変更等によって回避された結果である。後発は売れ筋商品である先発の商品に如何に権利侵害することなく,同種の商品が製造,販売できるかを必死に検討するのである。
 産業財産権は,権利期間は有限である他,権利自体が100%他社を排除することは極めて難解なのである。
 しかしながら,特許であれば如何に特許請求の範囲や実施例を記載するか,意匠であれば全体意匠,部分意匠,関連意匠を如何に活用して価値のある権利化を目指すかを事前に検討して権利の最大価値化を図るべきである。
 このような出願前の事前の戦略会議を筆者は「特許開発会議」と称して実践しているが,この会議は極めて有効かつ有益である。
 先発企業にとって特許,意匠に関係なく権利の最大価値化を如何に図るかによって先発の優位性による後発企業の排除によって市場の独占化と高収益化が可能となるため, そのための出願戦略が最重要なキーワードとなるのである。

 

3.後発企業と知財力強化
 一方,後発企業にとっては,先発企業の製品が市場を独占している場合や先発製品が高収益を上げている場合,さらには先発の技術が将来有望な市場を形成する場合等,先発企業に対抗して市場に進出することを企画するものであるが,その際の最大の障壁が「技術力」と「知財力」にある。後発企業が「技術力」があって同種製品の開発が可能であったとしても知財の障壁が打破できないとその市場に進出することができない。
 従って,後発企業としては情報網を利用して先発企業の産業財産権を調査,分析したうえで,侵害成否や無効の可否判断をしなければならないのである。
 その際,先発企業の産業財産権が強力な権利であってそれを回避できない場合には,原則,市場進出はできないが,特許権や意匠権は前記のように完璧な権利は,原則存在しないため,あらゆる思考法に基づきその回避策を検討すべきであるが,そのためには有能な知財の専門家(弁理士)が必要となる。
 一方, 後発企業の技術が先発企業の技術よりすぐれた技術となった場合には, むろん後発企業が特許権等を獲得し,より良い製品を市場に提供し,市場における優位性を後発企業が奪う戦略もあり得るのである。
 後発企業にとっての最大の目的は,先発企業の産業財産権網から適法に脱することにある。

 

4.知財ミックスの思考法

 現在, 企業に問われているのは, 企業経営や事業に貢献する知的財産戦略であり,該戦略によって企業の知財力を最大化し,これによって企業の収益向上に寄与することにある。
 知財戦略による知財力強化には種々の手法があるが,その基本戦略は産業財産権による知財力強化である。
 従来多くの企業は,前記のように特許重視型であるが,技術分野,例えば化学や製薬分野については特許重視型も理解できるが,特許,意匠,商標を知財部内の独立チームが行っているのが一般的で,これは分断型の思考法で独立思考型である。
 しかしながら,このような分断型思考法では強力な産業財産権の獲得に至らないケースがあることから,特許,意匠,商標を総合的見地から多面的かつ多角的に考え, 分断型からミックス型 (組み合わせ型) の思考法が必要で, これによってより一層強力な知財力を獲得し,所期の目的が達成できるのである。そのためには前記のように特許,意匠,商標の専門家のみではなく,その上にこれらを総合的(トータル的)にコーディネートできるマルチ型の知財マネジャーが必要不可欠である。
 このように知財ミックスの思考法の原点は,視点の変換である。

 

第2 知財ミックスの必要性

1.技術・製品の多様化
 最近の技術は,IoT等によって単一の「モノから」モノがインターネットにつながることによって多様なネット技術との融合技術へと進化しているのである。一方個々の製品も製品自体から売るための創意工夫によってパッケージデザインの進化や通販による販売形態の変化等,技術や製品のみならずその流通形態や販売形態も大きく変容しているのである。このような状況下においては,産業財産権(特許・実用新案・意匠・商標)の獲得も一義的に考えるのではなく,前記のように総合的に検討する必要に迫られているのである。これが正に知財ミックスによる知財力強化の必要性である。

 

2.法的側面(制度上と実務上)

(1)登録性

 特許と意匠では,特許より意匠の方が登録率が高い故に特許では拒絶されたが,意匠では登録されるケースも多々あるため,特許中心型では戦略上必ずしも優位にはならないケースがあるのである。
 さらに意匠は特許よりも審査結果が早くなるメリットもある。

 

(2)意匠特有の制度

 2020年4月1日から施行された意匠法では「画像意匠」,「建築物の意匠」,「内装意匠」が保護対象となった他,意匠には「部分意匠」や「関連意匠」,「秘密意匠」等特有の制度があるため,これらの制度を活用することにより特許よりも強力な知財力を得ることも可能である。

 

(3)保護期間(存続期間)

 ① 特許権    出願日から20年
 ② 実用新案権  出願日から10年
 ③ 意匠権    出願日から25年 
 ④ 商標権    登録日から10年 ⇒ 更新可
 上記のように各権利の存続期間が異なるため,例えば特許権より意匠権が長く存続するのが通常であるので特許権が消滅しても意匠権が存続していることによる優位性があるのである。

 

(4)保護範囲

 ① 特許権・実用新案権(技術的範囲)
 ※特許法70条1項
 「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」(実用新案法26条で特許法70条準用)と規定。
 

 ② 意匠権
 ※意匠法24条
 「登録意匠の範囲は,願書に記載及び願書に添付した図面に記載され,又は願書に添付した写真,ひな形,若しくは見本により現わされた意匠に基づいて定めなければならない。」と規定。

 ③ 商標権
 ※商標法27条
 「登録商標の範囲は,願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。」(同条1項)と規定。
 「指定商品又は指定役務の範囲は,願書の記載に基づいて定めなければならない。」(同条2項)と規定。
 

 上記の保護範囲(権利範囲)は,その権利の生命線であるが,その権利範囲に属するか否かは,夫々判断基準が異なるため特許権侵害にはならないが,意匠権侵害となり得る場合やその逆の場合もあり,そのことを前提として知財戦略を総合的に検討することが重要である。
 さらに戦略的には,当初特許のみを出願していたが,市場に類似品が出回った場合に,特許出願を分割しその分割出願を意匠に出願変更して早期に意匠権を獲得する手法や特許出願が拒絶査定となった場合に該出願を意匠に出願変更して意匠権を獲得する戦略手法も重要である。 但しその前提として特許出願の図面に意匠が「明確かつ具体的」で「同一性」があることが図示されていなければならないので,特許出願の際に意匠に出願変更を予定して図面を作成しているか否かが重要なキーワードとなることに注意しなければならないのである。

 

3.意匠と商標の接近化

 意匠は,あくまで物品の美的外観を保護するものである(但し画像は物品性不要)が,その保護客体は新規な創作物でなければならないのに対し,商標は自他商品識別標識による業務上の信用を保護するものであって,その保護客体は新規な創作物であることは要件ではない。
 商標は使用によって出所識別機能を発揮するものであるが,立体商標のように商品自体の立体的形状(例えばホンダのスーパーカブや,ヤクルトの容器,コカ・コーラのボトル等)であっても自他商品識別力を有するものは商標登録されるのである。
 しかしながら,立体商標は商品のデザインの創作性を保護するものではなく,あくまで自他商品識別力を有することを理由としてその形態に化体された業務上の信用を保護するものであって,商標と意匠とはその保護法益を異にする。
 しかるに,商品の包装形態等パッケージデザインの分野においては,意匠と商標の両者を登録して保護強化を図る傾向がある。さらには商標がデザイン化されて意匠的に使用されることにより意匠に接近する傾向や逆に意匠の商品形態を長く使用することにより商品形態が自他商品識別力を有するようなケースも多発している。
 従って,意匠と商標とは本来保護法益を異にするものであるが,両者を登録する等知財ミックスの活用戦略によって知財力を強化する傾向がみられるのである。

 

4.むすび

 以上のように多様化,複雑化する技術や製品分野において,企業の知財力強化のための手段として知財ミックスを出願前に多面的,多角的に考察し出願態様を戦略的に検討する必要性があるのである。
 さらに海外においては,特許よりも商標や意匠の出願戦略が模倣防止対策として極めて重要である。特にアジア等の新興国における営業戦略や模倣防止対策としてはブランドを第一義的に考え,さらにはデザインを第二義的に考える必要が権利行使の容易性から特に重要な戦略となる。同時に特許との知財ミックス戦略も併せて考察することはむろんである。

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