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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]後発の技術開発と知財戦略について

2020年03月06日

1.最近の企業間競争

 最近の企業間競争は、国内のみならず世界の企業との競争が激化し、世は正に戦国時代である。
 しかも、IoT技術やIT技術の普及によって、技術開発や製品開発は従来型の「もの」の開発から「こと」の開発にシフトする傾向にあることは最近の自動車業界等の開発の流れがこのことを如実に示している。
 一方、法的にも特許法の一部改正によって査証制度の導入により製造方法や方法特許に対する立証の容易化、さらには意匠法の一部改正によって、画像意匠が物品とは関係なく登録でき且つ権利行使できる他、内装意匠については個々の物品ではなく内装全体を意匠として権利化できること等によって、より一層権利の先取り化現象が生じることになる。
 今後成長する企業は、技術や製品の未来展望(次世代型技術)やその企業の新規事業、さらにはあるべき経営戦略を構想して競合他社より先行投資する必要がある。
 一方、先発企業に先発技術・先発製品で先行された場合に、後発企業は如何なる戦略で先発企業に打ち勝つか、その戦略によって運命が決するのである。

2.先発の優位性

 一般的に先発と後発の優位性について検討すると、先発は本来多額の投資を行って技術開発を行う以上、本来なら優位でなければならないのであるが、その知財戦略を誤ると後発に逆転され不利となる場合がある。
 特に技術力においてオンリーワンの技術力のある中堅・中小企業が先発で先行しながら、後日後発の大手企業の参入によって市場を奪われる等の事態が生じることは往々にある。
 いずれにしても、先発が優位なケースとしては、下記場合がある。

①先行して市場を獲得可
 市場を先行して独占化が可能となる。

②先行して特許権等で参入障壁を形成可
 後発を排除するために先行して特許権や意匠権等知的財産権によって参入障壁の構築可。

③生産性の先行可
 先発企業としては独自な製造技術で生産性の向上を図り先行可。

④標準化・規格化の先行可
 業界内において標準化や規格化のために先行して優位性の獲得可。

⑤ブランドの周知化
 先発は自社ブランドで市場に先行参入することによって、ブランドによる市場の周知著名化が可。

 上記のように先発企業は、新たな市場に先行、且つ独占的に参入して市場の独占化による高収益化が可能となるメリットがある。さらには、知的財産的にも第三者にライセンスを許諾する等によってライセンス収益を得ることも先発の優位性となる。

3.後発の優位性

 一方、後発企業にとっては、先発が先行して技術開発や先行製品を市場に投入しているため、先発の技術や製品を参考にでき技術開発を一から行う必要がない等、下記優位性がある。

①開発投資や開発力が少なくてよい(技術力)
 前記のように先行技術や先行製品が存在するため、一から投資することなく先発の技術や製品を分析して後発としての差別化製品や差別化技術の開発が容易となる。

②市場の追従(市場)
 先発が市場を形成しているため、その市場にフリーライドできるので初期の広告宣伝活動費が少なくて済む等のメリットがある。

③先発の問題点の改良・改善可
 先発の技術や製品の問題点を予め市場調査等によってサーチ可能なるため、これらの問題点等を検討したうえで改良した付加価値のある新たな差別化技術や製品を生み出すことが可。

 上記のように後発は、先発の技術や製品、市場の動向を読み取り、後発としての差別化技術や製品を市場に投入できるメリットがある。
 先発か後発か、いずれの場合にもメリット、デメリットがあるが、先発が戦略を誤らない限り、先発が優位であることに変わりはない。現在、その企業が業界内においてどのような位置付けなのか、あるいは事業分野や技術分野においては先発であったり、後発であったりする場合があるが、いずれの立場にあっても知財による参入障壁の構築とその戦略が企業リスク上極めて重要となる。

4.先発企業とリスク

(1)先発の関門
 先発企業にとって最重要なファクターは、市場と技術力と知財力にある。すなわち技術的に後発が同様な技術開発が可能か否か、すなわち技術にノウハウ等のブラックボックス化できる技術があり、後発が追随できるか否かが第1の関門、次にこの技術や製品を特許や意匠等による知財の参入障壁の形成により後発が参入できない強固な障壁の構築となっているか否かが第2の関門である。
 これらの関門が打ち破られるならば、容易に後発が市場に参入してくることになるため市場の独占化が困難となるので、先発企業はそのための強固な盾を構築できるか否かにある。

(2)先発のノウハウ(営業秘密)
 
先発の技術がブラックボックス化してノウハウで保護されるためには、①有用な技術(有用性)、②非公開性、③管理性の三要件を法律上具備していることが要件であるが、一般的には「管理性」すなわち企業内でその技術が物理的及び人的に管理されているか否かがノウハウの保護で常に問われるため、先行企業がこの「管理性」を社内で十二分に確立していなければ、法的にノウハウとして認められず、後発に漏洩されるリスクがあることに注意しなければならない。

(3)先発人材の流出防止策
 
先発にとって最先端技術や次世代型技術等、新規な技術や製品を開発した開発人材(発明者等)が競合他社(後発)にハンティングされる等によって流出しないような策を講じておくことも重要な課題である。

(4)知的財産権による参入障壁の構築と知財の権利範囲
 
ノウハウでブラックボックス化できるか否か問わず、先発が技術開発から製品化に至るまでに開発した技術やデザインを特許権、意匠権で強力な障壁として構築できるか否かが、後発の参入を許すか否かのポイントとなることは前記のとおりで、これが先発の生命線である。

①特許権
 特許権は、出願から審査を経て登録によって権利化されるのであるが、その権利範囲によって、後発の参入を許すか否かが決するのである。すなわち特許法70条は、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と定義しているのである。

 特許権は、有体財産である不動産と異なり無体財産権であって視覚によって判断できるものではなく、あくまでその権利の範囲は、上記特許請求の範囲に記載された文章によって決するのである。従って後発を排除するためには後発の技術や製品等がその特許請求の範囲内に属していなければならないのである。特許権の生命線は特許請求の範囲であり、該請求の範囲に記載された文章(文言)に全てが左右されるのである。
 折角、先発企業として新たな技術や新製品を開発したとしてもその特許権の権利範囲が狭く、後発が容易に回避できるならば市場の独占は不発となり、先発の大なるメリット(優位性)である市場の独占化、優位性を失うことにもなるのである。
 筆者の弁理士50年の経験(侵害訴訟件数 既に150件以上経験)からして、先発が特許権を保有するものの後発が接近した技術や製品を市場に参入しても、それを防止できない、価値のない権利も多数存在するのである。特許権は保有していても、その権利が後発を阻止する等先発の企業ビジネスに役立たない権利も数多く存在することを忘却してはならないのである。
 特許権は数によって価値が評価されるものではなく、権利の内容、すなわち他社を排除できるビジネス価値のある権利か否かによってその価値を決するものである。

②意匠権
 一方、製品や画像等のデザインに関する意匠権は、意匠権侵害か否かの判断基準は、登録意匠の範囲に属するか否かであるが、登録意匠の範囲は意匠法24条で「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基づいて定めなければならない。」と規定され、該登録意匠の範囲に属するか否かは、製品が登録意匠に類似するか否かによって決するのである。
 意匠の場合、特許のようにその範囲が文章で記載されていないため、特許権とは異なり意匠権を侵害するか否かの判断は極めて困難である。
 よって、先発企業としては先発の製品がデザイン的にも特徴があるならば、特許のみならず意匠によって保護することが極めて重要で、すなわち知財ミックスを戦略的に考え特許権のみならず意匠権によって保護する等、先発製品の保護を多角的に検討する必要がある。
 例えば、有名なアップルとサムスンの米国のカリフォルニアの連邦地裁の事件では、意匠権侵害を理由にサムスンが高額な損害金を支払うことになったのである。

③商標権
 先発企業にとって、新規な市場に新製品等を投入して市場を独占化することは先発の最大価値化となるが、その際上記特許や意匠によって参入障壁を構築することが第一義的に最重要課題である。
 一方、市場に先行して新たな市場を形成する場合にブランド戦略を構築して商標権を獲得することも事業戦略上極めて重要な課題で、ブランドが周知、著名化することによって市場での優位性、信頼性、安心・安全性を得ることが可能となるからである。特に海外においては、特許権、意匠権よりも商標権によるその国でのブランドの浸透化がより一層市場における優位性を獲得することに寄与することになるのである。

5.後発のビハインド攻略法

(1)後発企業が先発企業への挑戦理由
 後発企業がリスクを負いながら先発企業の技術や製品にチャレンジする理由としては、大別すると下記理由がある。

①市場規模と将来性(次世代型技術・製品)
 先発が開発した新規技術や製品の市場規模が大きく、且つ将来性のある市場であることに着目して後発が攻撃する場合。通常、大手企業が後発となる場合にはこのケースが非常に多い。

②ヒット商品(売れ筋商品)
 先発が開発した商品が大きくヒットし、これにフリーライドして追随するケース。このケースは比較的、中堅・中小企業が多い。

③具体的事例
 本件は、ある大手の薬剤メーカーが先発して開発した製品(技術)がヒット商品となり、市場規模が数百億円で先発企業が市場を独占していたケース。このケースにおいては、競合他社が同じ業界であるにもかかわらず市場参入していなかったことに対し、経営トップが市場に参入して10%でも市場を獲得できないのかと開発と知財のトップに厳命し後発としてその攻略法を検討させたケースがあった。
 このケースにおいては、後発が技術面ではクリアでき新たな技術・製品開発は可能となったが、開発技術や製品が先発の特許権と意匠権(両者で約100件)が障壁となり、これらを回避するために相当な期間を要して検討した結果、上記知財障壁から回避できた。

(2)後発企業とその攻略法
 後発企業が先発の分野に参入するには、前記のように次の関門を打破しなければならない。

①市場の調査・分析
 先発の技術や製品分野の現在の市場規模等、市場の調査、分析によって後発として該市場に参入する価値があるか否か。さらには、世界的にこの市場に参入する後発企業数や投資金額、投資人材等を総合的に検討して市場参入の価値評価を行うことが後発についての最初の関門である。

②技術性の調査・分析
 先発の技術や製品に対し、技術的に製造の観点から製造が可能か否か。特に製造方法等製造技術に先発のノウハウがあるか否か等を検証して技術開発の可能性を検討する必要がある。
 製造が技術的に可能であったとしても、先発の技術(特許)やノウハウを利用しない限り採算性に問題がある等、技術的側面のみならず、経済的側面も併せて検討する必要がある。
 筆者が経験した事例では、後発として先発の製造技術(特許発明)を回避して製造することは可能であったが、先発の製造技術である特許発明を利用しない限り製造コストが高くなり、先発に対し価格面で競争(対抗)できず、結局先発企業にライセンスを許諾してもらったケースがあった。
 上記技術的観点から、先発の技術や製品と同等あるいはそれ以上に付加価値のある差別化製品を製造することが、経済的にも可能か否かの検討が次の関門である。

③先発人材のハンティング
 先発が次世代技術等最先端技術や新規事業で先行している場合に、後発としてその市場に参入したいが、その技術分野や事業分野に優れた技術者や開発者がいない場合には、先発の優秀な発明者等を特許公報からサーチして、ハンティングする方法もあり得る(人材攻略法)。

④知的財産権の障壁の打破
 次に前記市場性と技術性の関門を打破して、後発として新たな市場に参入することが可能であったとしても、次の関門である知的財産権の障壁を打破できるか否かが後発の最大かつ最後の障壁である。

6.侵害成否の判断の重要性
 上記先発の関門を打破する攻略法としては、第1に先発の知財情報の調査・分析、第2に調査・分析の結果、障害となる知的財産権の権利侵害リスクの回避策の検討にある。第3に該知財権による参入障壁を確実に打破しているか否か、この分野の知財のプロである弁理士に鑑定あるいは相談することが必要不可欠である。

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