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[コラム]特許権侵害訴訟における損害額と実施料の算定基準に関する判決

2019年10月11日

1.令和元年6月7日、知財高裁大合議が「損害賠償請求における特許法102条2項の利益の意義、推定の覆滅及び同3項の実施料相当額の算定基準」について判示したため、これを紹介する。

2.特許法102条2項

 特許法102条2項は、「特許権者…が故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者…が受けた損害の額と推定する。」と規定している。すなわち、特許法は損害額の推定規定に関し、同法1項は権利侵害者に対し権利者が単位数量当たりの利益の額を請求することができると規定し、同条2項は上記のように侵害者が得た利益について請求することができると規定し、同条3項は実施料相当額を請求することができると規定している。

3.侵害行為により侵害者が受けた利益とは?

「特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にある。」と判示。
 特許権侵害訴訟において、利益の意義は従来から裁判所は限界利益説を採用している。

②限界利益とは、上記のように売上から侵害品の製造販売に直接関連する必要経費を控除した額とされる。通常、該経費には原価や運送費等侵害品の製造販売に直接必要とする経費をいうものであるが、この経費について下記のように判示した。

③控除すべき経費について
 「前記の通り、控除すべき経費は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものをいい、例えば、侵害品についての原材料費、仕入費用、運送費等がこれに当たる。これに対し、例えば、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない。」
具体的な当てはめについては、裁判所は「原材料費、仕入費用及び運送費等控除すべき経費」として当事者間に争いがない費用と、被告製品の防腐、防カビ試験に関する費用、被告製品についてのプロモーション代の控除は認めたものの、その他の人件費や宣伝広告費等については被告製品に係るものであるのか不明であることなどを理由に、被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費とは認めず、その控除を否定した。
このように控除できる費用は、侵害品の製造販売に直接関連している経費に限り認め、その他人件費等は認めなかった。

④推定覆滅事由について
 上記のように限界利益を算定した後、さらに該利益と特許権者が受けた損害との間に相当因果関係を阻害する事情がある場合には、該事情が推定覆滅の事情として考慮され、利益から控除される。
これらの事情としては、「例えば、[1]特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、[2]市場における競合品の存在、[3]侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、[4]侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について、特許法102条1項ただし書の事情と同様、同条2項についても、これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。」と判示している。
 以上の如く、今回の知財高裁の大合議判決は、侵害者利益の推定(特許法102条2項)の利益とは何か、控除される経費とは何か、さらには推定覆滅事由として認められる事情とは何かについて具体的に判示した有意義な判決として評価されている。

4.特許法102条3項(実施料相当額)について

 「特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。」
 「特許法102条3項は、「特許権者…は、故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定する。そうすると、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。」と判示し、さらに特許権侵害に当たるとされた場合には、「必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。したがって、実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。」と判示した。

 この判決の趣旨からすれば、本条3項の「実施料相当額」とは、当事者間の実施許諾契約とは別に考えるべきであることから、許諾による実施料よりも高額の実施料率で算定されることとなり、現に本件の事件では「10%」と認定されたことは極めて注意すべきである。

5.いずれにしても上記判決を契機として損害賠償請求事件においては、損害額が高額となる恐れがあるため、企業の危機管理対策はさらに厳格にすべきである。尚、本件に関して質問等がありましたら藤本パートナーズの弁理士 藤本昇に御相談下さい。

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