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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]知的財産権と独占禁止法

2018年08月08日

1.独禁法第1条(目的)

 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

 

2.独禁法の4本柱

 独禁法は公正かつ自由な競争を維持・促進するために①共同行為の規制、②私的独占の禁止、③不公正な取引方法の規制、④企業結合の規制、という4つの規制を規定している。

 ①共同行為の規制は、競争の回避によって競争を制限することを規制しており、中心となる規定は「不当な取引制限の禁止規定(3条後段、2条6項)」であり、複数の事業者が相互拘束によって市場支配力の形成・強化等をすることを禁止している。

 ②私的独占の禁止は、他の事業者の事業活動を「排除」または「支配」することによって市場支配力を形成・強化等をすることを禁止している(3条前段、2条5項)。

 ③不公正な取引方法の規制は、(ア)共同の供給拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用(2条9項1~5号)、及び(イ)不当な差別的取り扱い、不当対価取引、不当な顧客誘引・取引強制、不当な拘束条件付取引、取引上の地位の不当利用、不当な取引妨害・内部干渉のいずれかに該当する行為であって、「公正な競争を阻害するおそれがある」として公正取引委員会が指定する行為(2条9項6号)を禁止している。

 ④企業結合の規制は、株式保有、役員兼任、合併、事業譲受けなどの企業結合によって市場支配力の形成・強化等をもたらすこととなることなどを禁止している。

 

3.独禁法と知的財産権の権利行使(独禁法21条)

 (1)独禁法は、知的財産権と独禁法との関係についても規定しており(第21条)、例えば、特許権は特許権者が特許の対象である特許発明を実施する権利を占有することを認めているが(特許法第68条)、外形上、特許権の行使とみられる行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさも勘案した上で、事業者に創意工夫を発揮させ、技術の活用を図るという、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は、同制度の目的に反すると認められる場合は、独禁法第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独禁法が適用される。

 (2)上記のように独禁法は、正当な特許権等の知的財産権の権利行使については独禁法の適用除外とされている。しかしながら、特許権等の権利行使の態様、特に特許権を利用した不当な拘束条件付取引等は独禁法違反になる。具体的には取引態様が不当か否かが争点となるケースが多いので要注意。

 

4.パチンコ機製造特許プール事件(パテントプール)

 (1)一般的にパテントプールは、複数の権利者が所有する特許権等を相互に使用可能とすることにより、当該特許権等の利用価値を高め、権利者間の技術交流を促進するなどの効果を有するもので、その仕組み自体が、直ちに独禁法に違反するものではない。

 (2)本件においては、

 ①パチンコ機製造業者10社は、パチンコ機に関する多くの特許権を所有し、その管理を日特連に委託するとともに、日特連の株式の過半を所有し役員等を派遣する等して、日特連の特許権等の実施許諾に実質的に関与している。

 ②日特連の所有する特許権の実施許諾なしには風営法に適合するパチンコ機を製造することは困難であり、国内のパチンコ機製造業者のほとんどである日本遊技機工業組合の組合員19社は、日特連から特許の実施許諾を受けてパチンコ機を製造している。

 (3)本件審決の内容(独禁法違反)

 本件においては、本件特許がパチンコ機の製造に不可欠な権利であり、その実施許諾を受けることなく、風営法に適合するパチンコ機を製造することが困難な状況において、10社及び日特連が、共同して、参入を排除する方針の下に、特許権等の取得、集積に努めて参入障壁を強化するとともに、アウトサイダーに対して、本件特許の実施許諾を拒絶した行為を捉えて、私的独占の行為の要件である「排除」を認定している。

 特許権者がその所有する特許権の実施許諾をするか否かは、本来、権利者の自由であり、特許権の実施許諾を拒絶する行為も、特許法による「権利の行使」とみられる行為である。

 しかし、本件のように、新規参入を排除する目的で、10社及び日特連が共同してアウトサイダーに対する特許権等の実施許諾を拒絶する行為は、そもそも、行為の外形からして「権利の行使」に当たらないともいえるし、また、たとえ外形上は「権利の行使」に当たるとしても、もはや知的財産制度の趣旨を逸脱するものであると評価されるのであり「権利の行使とは認められない」ものであるといえると、認定した。

 

5.要注意

 特許権者等において、正当な権利行使は認められるが、不当な取引条件の設定や不当なパテントプール等公共の利益に反するような知的財産権の権利行使は独禁法違反になるケースがあるので要注意。

 特にライセンス契約等契約書作成時に不当な取引制限規定がないか等独禁法との関係をも十分に考慮して契約書を作成すべきである。

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