1.事件概要
・最高裁第3小法廷
・平成27(受)1876号事件
・事件名:不正競争防止法による差止等請求本訴事件
:商標権侵害行為差止等請求反訴事件
・原 審:福岡高等裁判所
2.判決要旨
♦商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後、商標権侵害訴訟の相手方は、同号該当をもって同法39条、特許法104条の3第1項にかかる抗弁を主張することが原則として許されない
♦商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後でも、商標権侵害訴訟の相手方は、自己の商品等表示として周知である商標との関係での同号該当を理由として権利濫用の抗弁を主張することが許される
3.原審(福岡高裁)の判決
①被上告人使用商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示(中略)として需要者との間に広く認識されているもの」に当たり、上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当するとして、本請求の一部を認容した。
②被上告人使用商標は、商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」に当たり、被上告人使用商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても、商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当するから、同法39条において準用される特許法104条の3第1項に係る抗弁が認められ、被上告人に対する本件各商標権の行使は許されないとして、反訴請求を棄却すべきものとした。
4.最高裁判決
①不正競争防止法2条1項1号の周知性について
これらの事情から直ちに、被上告人使用商標が日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったということはできない。
したがって、被上告人による本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審理することなく、原審摘示の事情のみをもって直ちに、被上告人使用商標が不正競争防止法2条1項1号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとして、上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為につき、同号該当性を認めた原審の判断には、法令の適用を誤った違法があるというべきである。
②商標法4条1項10号について
商標法47条1項は、商標登録が同法4条1項10号の規定に違反してされたときは、不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き、商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその商標登録についての無効審判を請求することができない旨定めており、その趣旨は、同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが、商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは、商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために、商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決)
③商標権と権利行使の制限の抗弁が可能か
商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば、商標権侵害訴訟において、商用登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ、上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから、この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても、同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。
そうすると、商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
④権利濫用の主張が認められるか
登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として、自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ、かかる抗弁については、商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても、同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。
したがって、商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標叉はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として、自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。
5.本件判決の意義
本件判決は、不正競争防止法2条1項1号及び商標法4条1項10号の周知性の主張・立証について厳しく言及し、原審が認めた周知性の立証資料では十分立証されていないとして本件を福岡高裁に差し戻す判決を行ったのであるが、その理由は正当な判断であると評価できる。
次に、無効審判請求期間経過後(除斥期間)は、無効審判請求できない以上、権利不行使の規定による抗弁は認めないと判断した、しかしながら、一方では権利濫用の法理を認め周知商標の使用実体を保護することとなったのであるが、この論理も正当化できる判断であると評価できる。