日本は、小泉総理の時代に知的財産戦略本部を創設して知的財産の重要性を国家戦略として位置づけ、知的財産基本法を制定した。
知的財産権を重視する戦略はプロパテント政策として極めて重要であることは理解でき、そのための法整備や司法制度改革を行うことは極めて重要な意義がある。
しかしながら実務家として現実の侵害訴訟等を経験していると、本当にプロパテント政策が実行されているのか極めて疑問である。現実には権利者が侵害訴訟を提起した場合に、和解は別として、判決では約80%権利者が負訴する結果となっているのである。このことは正に権利者が有利なはずの侵害訴訟事件において権利者負訴では全く意義がないのである。
負訴要因としては、大別すると権利の範囲が狭く解釈されて非侵害となるケースと、権利自体の有効性が争われて権利が無効の可能性ありと判断されるケースとがある。
前者の権利範囲の問題は権利者自身の責任であって権利者自身がその解決策を考えなければならないのである。産業財産権はいくら多くの権利を保有していてもそれが企業ビジネスに役立たなければ何の意味もないのである。そのために日頃から出願前の戦略を十分に行い、そのうえで調査・検討した後、明細書を起案すべきであって、出願前の対策が全てであると同時に明細書を記載する弁理士の質も併せて問題である。
一方、後者のケースにおいて当然に特許庁審査官が調査していなければならない国内公報等によって無効になるケースがあるが、これは特許庁の責任であると考える。
現在特許庁は調査機関と審査機関を別々にしているため、応々に調査して引用しなければならない公知文献が調査段階で漏れている場合があり、これが無効資料として引用され、その結果無効となる場合がある。
特許が無効にされるものと裁判所で判断されると、権利者は権利行使できなくなる(特許法第104条の3)。
このようなケースが最近増加し、その結果、権利者負訴となっている事件も数多くある。
特許庁は審査の早期化を求めるよりも審査の完全性を求め、権利の安定化を図るべきであり、このことが正に日本のプロパテント政策になるのである。
無効にされるべき特許権等を数多く創設しても全く意味がないのみならず、企業活動の弊害となることを忘却してはならない。