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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]知財法理 → 特定・対比・評価・判断(知財法理の四大要素を深く知るべし)

2008年09月17日

 知財分野においては、特許・意匠・商標に関係なく、常にその大原則として特定(認定)、対比、評価、判断の四大要素がある。

 この四大要素は、権利化業務のみならず鑑定業務や紛争・訴訟業務についても全て当てはまる重要な要素ないしは原則である。

※ 権利化業務において

(1) 出願前段階

  例えば特許の場合、発明が完成し、この発明が登録可能性があるか否かの判断は、まずその発明とは何か、その本質を特定することにあり、特定されるとその発明に対応する最近似の従来技術を特定することにある。
このようにして第1ステップでは出願しようとする発明と従来技術を特定することにある。

 次に第2ステップとして特定された発明と従来技術との課題、構成、作用効果等の共通点と相違点を対比することにある。

 第3ステップで対比した上でその共通点と相違点を評価し、新規性、進歩性があるか否かの判断をし、

 第4ステップでその結果としての登録性の有無判断を行うものである。

(2) 出願中の段階

 出願した本願発明について拒絶引例に基づく拒絶理由通知が発せられ、意見書を提出する場合には、本願発明と引用発明を正確に特定したうえで、両者を対比、評価して特許性があることを主張するものであるが、意見書によっては引例を十分に精査して特定することなく、対比論を展開してその相違点を主張しているケースが多く見られる。

 しかしながら引例を十分に特定することなく対比することは極めて失当な意見書であり、特定こそが対比論の前提であることを忘却してはならない。特許の場合には引例は公報であることが一般であるが、意匠の場合には公報よりカタログ等の非公報文献が多数引例されるため、この場合には要注意で、引例された非公報文献の意匠の特定に注意しなければならないにもかかわらず特定を十分することもなく対比して非類似論を主張しているケースが多く見られるが好ましくないのである。

※ 審判事件段階

 審判には拒絶査定系と無効審判系があるが、前者の場合にも前記と同様に本願発明と引用例である甲第○号発明とを十分に特定したうえで対比、評価して拒絶査定を取り消すべき主張をすべきである。

 無効審判系においては、無効対象の特許発明の特定と該特許発明を無効とする理由に引用する甲第○号発明の特定に注意を払うべきで、特にその無効引例が非公報文献の場合には発行日、発行者、掲載内容を十分に特定することが先決である。

※ 審決取消訴訟事件段階

 審決取消訴訟においては、審決を取り消すことを目的とする訴訟であるため、その取消事由として審決の特定(認定)した本願発明または甲第○号発明(引例)が正確に特定されているか否か予め検討し、その特定が不十分又は誤りがあるようなケースにおいてはその特定の誤りを取消事由とすべきである。

 一般的に対比論や評価、判断を重視して審決や結論のみを取消事由としているケースが多く見られるが、まずは特定に誤りがないのか否かを検討すべきである。

 私が代理した最新の審決取消訴訟事件 [平成20年(行ケ)第10069号、同10070号、同10071号事件] においては、本件登録意匠の特定に誤りがあるためこれを取消事由1とし、その結果判断結果(創作性)に誤りがあることを取消事由2として提訴した事件で、知財高裁は私の主張を認めて審決を取り消したケースがある。

※ 侵害訴訟事件段階

 侵害訴訟事件においては、原告、被告を問わず侵害訴訟物(イ号物件)の特定が最重要となる。

 特にこの種訴訟事件においては特定で当事者が争うケースが多いため、その特定及び認否は最重要課題である。

※ 小括

 以上のように、知財分野にといては、権利化業務はむろん、審決取消訴訟や紛争事件、侵害訴訟事件、さらには侵害成否の鑑定等あらゆるケースにおいて登場するのが特定、対比、評価、判断の四大要素である。

 しかるに、訴訟経験のない、あるいは専門家(弁護士、弁理士)ですら、特定に十分な注意を払うことなく新規性、進歩性があるとか、侵害であるとか主張する人が多いが、これは大きな誤りで、特定が十分でなければ対比、評価も誤ることになることに注意しなければならない。

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