本件事件の概要は、第1審判決(大阪地裁平成16年10月21日判決)において、本件特許発明の請求項1発明は新規性なしとの無効理由で、請求項5発明は進歩性なしとの無効理由で、いずれも無効理由が存在することが明らかであるため、本件特許権の行使は権利濫用に当たり許されないとした判決である。
第2審・控訴審(大阪高裁平成18年5月31日判決)においては、請求項5発明は無効理由があるとの理由で控訴が棄却された。
前記控訴審判決後の平成18年6月16日、控訴人は上告及び上告受理の申し立てを行った。
一方、控訴人である特許権者は、平成17年1月21日から平成18年8月迄、計5回の訂正審判請求の請求と取下げを繰り返した結果、最終の第5回訂正審判請求が平成18年8月29日訂正を認めるとの訂正審決がなされたのである。
訂正が認められたことを理由に、民訴法338条1項8号規定の再審事由があるとして最高裁に申し立てたのが本件事件である。
しかるに、最高裁は、訂正が訂正要件を具備し、訂正によって無効理由が解消され、しかも訂正後の特許請求の範囲を前提として被控訴人の製品がその技術的範囲に属すると認められるときには、再審事由に該当すると解される余地があると判断した。
しかしながら、本件事件において控訴人が訂正して認められた第5回目の訂正審判請求は、上告及び上告受理の申立後であり、これらの複数回の訂正行為は早期に対抗主張をすべきであったにもかかわらず、それを繰り返すべきことに正当化する理由はない。
よって、特許法第104条の3の2項による不当に審理を遅延させるものであるから、同規定の趣旨に照らしてこれを許すことができないとの理由で上告を棄却したのである。棄却理由自体は理解できるが、訂正審判を繰り返す権利者側の判断に問題ありと考える。
本件事件での本質的な問題は、特許法第104条の3の規定から無効主張のみならず無効主張に対して権利者が訂正等によって対抗主張をできること。しかもその訂正可否について裁判所が判断できること。但しその訂正は、①訂正要件を充たすこと、②訂正後のクレームにより無効理由が解消すること、③対象製品(方法)が訂正後のクレームの技術的範囲に属することを要するとされている。
しかるに問題は、訂正審判請求や訂正認容の審決なしに裁判所が、特許庁と関係なく訂正可否等の上記①と②の判断をすること自体許されるのか否かである。
訂正の可否は、権利設定と同義内容で本来特許庁の専属事項ではないのか。
個別事件における無効の判断と訂正の判断とは根本的に異なるものである。
今後、訂正に関する特許庁の審判と裁判所の判断とは、根本的に制度上の点のみならず司法と行政の三権分立の原則からも議論すべき大テーマであると考える。