特許法第102条は、損害額の推定規定として、民法709条に基づく損害賠償請求権の損害に関する特則である。
同法102条は1項、2項、3項の三基準があり、1項は権利者製品の単位数量当りの利益及び権利者の実施能力を主張立証するだけで逸失利益の立証を可能とした規定である。
同2項は侵害者の得た利益の額を権利者の損害額と推定することができる規定である。
同3項は侵害者に対しその特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を損害額として請求できる規定である。
一般的には、侵害者の販売額が権利者の販売額より低価で、利益率も低いケースがあるため、権利者としては同法1項の権利者の利益を基準として損害額を請求する方が高額となるケースがある。
しかしながら、競合企業が侵害者であるような場合には、権利者が自らの利益を開示することが好まない場合があり、このような場合には侵害者利益を損害として請求する2項適用のケースもある。
次に権利者が1項を適用して損害額を請求した場合であっても、『侵害者の譲渡数量=権利者の喪失した販売数量』とはできない事情が存在する場合には、侵害者がその旨を主張立証することにより、その事情に応じた額を控除することができる(同1項ただし書の規定)。
ただし書の事情としては、市場に侵害品以外の代替品、競合品が存在すること、侵害者の営業努力、市場開発努力、購入者は価格を重視して購入する製品において侵害品が廉価であったこと、販売形態の違い、ブランド、性能の相違、需要者を惹きつける特徴など、侵害品が存在しなければ権利者製品が売れたはずだという因果関係に関係する全ての事情が対象となる。
裁判例では、市場での第三者の競合品の存在、通常実施権者の存在、価格の相違の一つをただし書の事情として認定したケースのほか、侵害部分が製品の一部であること、侵害品が特許発明とは異なる特徴的機能を有していること、販売方式の相違、権利者の市場での競争力など複数の事情をただし書の事情として総合的に認定したケースがある。
このように権利者が1項適用により損害額を請求された場合には、侵害者は上記事情をできる限り主張立証すべきである。
さらに、権利者が2項を適用して損害額を請求してきた場合には、権利者が侵害者と同じ利益額を得られることがないとの、侵害者にとって合理的な理由がある場合にはその主張立証をすべきである。すなわち同2項はあくまで推定規定であるからである。
特に侵害者のブランド力や営業努力等が高いような事実や事情がある場合には損害額の減額を請求すべきである。
以上のとおり、知的財産権(不正競争防止法を含む)侵害事件における損害額の算定基準には、前記のように権利者利益、侵害者利益、実施料額の三基準があるが、権利者、侵害者いずれの立場であっても夫々の規定の趣旨と事実、事情を十分に考慮して主張立証する必要がある。