経済活動のグローバル化が進行する中で、TPP等の自由貿易が進展し増々企業活動も国境なき時代になるであろう。
一方、このような時代的背景の中で、我が国にとって知的財産は有効且つ有益な武器となるのであるが、政府の知的財産戦略は実務上十分に生かされていない他、その戦略は実務と遊離した実効力の弱い戦略となっているのが現状である。
このような現状を踏まえて現在の我が国の知的財産に関する行政上、司法上、企業上の諸問題について考察する。
1.行政上の諸問題
(1) 特許庁の諸政策
本年4月1日から施行された特許異議申立制度の復活は最適例であるが、特許庁の政策には一貫性を欠く他、知的財産法の本質や国家政策としての知財戦略の本質を問うことなく、場当り的な政策が多い。
(2) 特許庁の審査・審判の品質
日本の特許審査は、諸外国に比し厳格な審査が現在迄行われていたが、最近の審査は極めて甘く特許を付与することに傾注していると思われる。
いずれにしても我が国独特な審査基準で統一した高品質な審査を行うべきで、決して世界一早い審査を出願人は求めているのではなく、安心・安定した権利の付与を求めているのである。
(3) 特許庁の調査
特許庁は審査とは別機関に調査を依頼してこれら調査機関による調査結果に基づき審査しているが、その結果、審査官にはその分野の技術力が弱くなっている他、調査にミスが多く、その結果、後日特許が無効となるケースも発生している。
(4) 特許庁長官の任期
特許庁長官は、原則1年交代であるが、これでは我が国が知財戦略を重視しているとは到底考えられないし、このようなトップの早期交代こそが特許庁の政策に一貫性を欠く要因となっているのである。
2.司法上の諸問題
(1) 特許権者の裁判上の勝訴率の低さ
特許権者が侵害訴訟を提起してもその勝訴率が判決では約25%であり、これでは権利行使の意義がない。その要因の一つは特許法104条の3による裁判所の無効の判断である。
裁判所が独自に無効の判断を可能とする同法は廃止又は改正すべきである。
(2) 損害賠償額の低さ
我が国の特許権侵害訴訟によって認定される損害額は、米国の100分の1以下で極めて低額であるが、その要因の一つは寄与率による損害額の認定にあると考える。
特許の寄与率はもっと高く認定すべきであると同時に、その根拠を明確化すべきである。
3.企業の特許の諸問題
日本の大半の企業は、権利化を目的とし権利活用を目的とする企業が少ないため、権利活用により侵害訴訟やライセンス交渉する際、特に外国企業に対してはその国の権利範囲が狭く十分な権利活用ができず、結局外国企業にとって日本企業の特許は脅威となっていないのである。さらに日本における特許裁判は前記のように損害額が低く、勝訴率も低いことが外国企業にとって脅威となっていないのである。
このことは企業の知財部の責任はむろん委任した外部の弁理士の責任でもあると思う。
4.今後の対策
政府は今後の日本の知財戦略を実務にそった政策を行うべきであると同時に司法改革も含めて法改正が必要である。
さらに企業にとっては知財戦略や権利化の見直し並びに委任する弁理士や特許事務所を早期に見直し、企業の知財戦略に沿った優秀で戦略的な弁理士を選任すべきである。