1.はじめに
本件事件は、弁理士法人藤本パートナーズの依頼先企業(被告)が販売している、洗濯物等の「収納容器」が原告の登録意匠に類似するため、意匠権を侵害すると警告され、その後東京地方裁判所に提訴された事件の控訴審事件である。
2.原審(東京地裁)の判決(令和3年(ワ)第20229号意匠権侵害等請求事件)
原審は、被告販売の「収納容器」は原告の登録意匠と類似するため、被告の行為は意匠権を侵害すると判示したのである。その結果、差止請求と損害賠償請求が認められ被告が敗訴したのである(令和6年10月30日判決)。
3.弁理士 藤本昇の意見
上記東京地裁で弁理士藤本昇は、被告商品と登録意匠とは類似しないことをあらゆる手法を使用して主張したのであるが、東京地裁は類似すると結論付けたのである。
この判決に対し、弁理士藤本昇は現在迄の55年間の弁理士としての訴訟経験や実務経験からして到底承服し難い判決であること、半ば憤りを感じ依頼者に控訴することを進言し、その結果控訴することを決定した。
4.控訴審判決(令和7年6月26日)
(1)控訴の主たる理由
㋑意匠のみかた(観察手法)の誤り
意匠の類否判断として物品の性質、用途、使用態様を考慮して判断することが前提であるが、原審の判決は商品を斜め上方から観察すべきとして商品の正面視、側面視の形状、すなわち全体観察を軽視したことは意匠のみかたを誤った最大の理由であると主張した。
㋺具体的構成態様④の認定の誤り
原審は、公知意匠を参酌しながらも具体的構成態様④について登録意匠の新規な構成態様を認定せず公知意匠にある態様を具体的構成態様④と認定したことは誤りであると主張した。
㋩意匠の要部認定の誤り
原審は、自ら認定した具体的構成態様④を前提として基本的構成態様と具体的構成態様の組み合わせを意匠の要部と認定したが、その前提である具体的構成態様④に誤りがある以上、意匠の要部認定も誤りであると主張した。
(2)上記被告の控訴理由の主張に対し、控訴審は略全ての控訴理由が正当であるため、被告商品と登録意匠とは類似しないため、原審判決が取り消されるべきとの判決を下し、被告が逆転勝訴となったのである。
5.本件事件から学ぶべきこと!
(1)知財事件は諦めないこと(徹底的に争う姿勢が必要)
(2)意匠の第一人者としての弁理士藤本昇の知財哲学から学ぶ知財紛争(知財実務)
(3)意匠のみかたの重要性(本質を問う)
(4)構成態様は自ら有利になるよう戦術を練ること
(5)裁判官を説得するための可視的戦略の重要性
(6)弁理士としての信念を持つことの重要性
(7)意匠は文章がない。自らの戦術にそって説得力のある高度な文章表現すること