1.従来型の知的財産評価
従来、企業内における知的財産について、多くの企業は権利化を目的とし、権利の数によって自社の知的財産の価値を評価していた時代があった。
しかるに、このような数の論理は何ら企業の経営や事業に直結しない論理であって、知的財産は経営者にとって知財部が取り扱うもので経営マターとして捉えていなかったのである。
しかしながら、これでは何のために多額の費用を投資して出願~権利化しているのか大いなる疑問をいだくとともに中国等の新興国への対抗にはなっていない、あるいは競合企業への脅威的武器になっていないことに気付き、多くの企業は知財戦略を転換し、現在では企業経営や事業に貢献する知財戦略とは何かを考え、新たに実践しているもので、その中核は特許件数ではなく、特許の質すなわち内容にあることに気付き、その方向を転換したのである。
日本の知財戦略の乏しさが、現在の知財分野における中国の台頭を許し、アメリカにも大きく負け、日本の弱電メーカー(シャープ、東芝、三洋電機等)が衰退している現状がこのことを正に切実に示しているのである。
2.今・今後の知財戦略とその価値
経営や事業の成否は、知財分析や知財戦略によって決すると言っても決して過言ではない時代に突入しているのである。従来の「モノ」から「コト」の時代への突入のように、技術や製品はハード面のみの時代からソフトとの融合等新たなIT技術や通信技術等のDXを駆使して、かつ意識して新たなビジネスモデルやイノベーションを創造する時代である。
このことは、トヨタとソフトバンク、ホンダと楽天等が提携したことが如実に物語っている。さらに競争のグローバル化がハイスピード化していることから、知財戦略のグローバル化がより一層重要で、知財は正に企業の生命線となり得る時代で、その戦略や価値評価が最重要課題である。
3.コーポレートガバナンス・コード
2021年6月に改訂された企業統治指針では、知的財産への投資を取締役会が監督し、開示すべきであるとしたのである。このことは、正に企業経営者に知財を経営資産として認識し、その戦略や実体を投資家に開示しアピールすることの重要性を意識付け、行動規範としたのである。
今後、企業の知財戦略とは、本来事業の方向性と密接に結びついた経営戦略であることを内外ともに認識させるべく、その成果や方向性を見える化すべきである。今後益々企業の経営資源は有形資産から知財等の無形資産にシフトし、無形資産が企業価値として高く評価されるのである。(既にアメリカでは、企業価値の90%が無形資産である。)
今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂によって知財の見える化(開示)が重要であるが、その開示内容は出願件数や権利件数等の統計数値では全く意味がない。あくまでその企業に投資家が投資したくなるような知財戦略や知財内容(技術内容・製品内容等)でなければばらないのである。
4.競争激化と知財戦略
競争に勝つためには、強い武器を保有することであり、そのためには武器(特許権等)強化戦略が、最近の企業の知財の最重要テーマである。
武器強化戦略には、特許の場合、明細書、特に特許請求の範囲の記載内容が強化戦略の最重要課題であり、意匠の場合は、全体意匠、部分意匠、関連意匠、秘密意匠等意匠特有の制度を如何に戦略的に活用するかであり、商標の場合には、企業のブランド戦略と一体化した戦略が重要で、特に海外でのブランド戦略は企業の成長戦略の最重要テーマである。
これら特許、実用新案、意匠、商標の知財ミックス活用戦略が武器強化戦略の最重要手段である。