1.工業デザインと意匠
最近、工業デザインを含むデザインの重要性が国内外を問わず増している。このことは、WIPOの統計からみても意匠出願総数が、1995年の20万件未満から2018年には100万件超に増加したことからも世界は意匠に注目していることが伺える。
また、最近ではデザインの重要性が叫ばれているが、このデザインの文字には狭義の意匠(意匠法上の意匠)のみならず、さらにデザイン経営やデザイン思考等デザイン的発想を含み、これらデザイン的発想を経営戦略に取り入れる企業も増加している。
2.知的財産権法上の意匠権
意匠に関する出願動向を確認すると、中国の意匠出願件数は他国に比し桁が違うほど多い(2019年度711,617件,日本は31,489件)。さらに中国のみならずイギリスやインド、ロシア、米国等も意匠出願件数が増加傾向にあるのに対し、日本は約30万件とほとんど変化がない。特に米国は日本の1.5倍と増加傾向にある。
このように世界は、デザイン重視の傾向にあると同時に意匠出願件数も増加傾向にあるのに対し、日本はほとんど横ばいで、法改正によっても大きく増加していない。
3.日本企業のデザイン重視策
日本は、どちらかと言えば一部企業を除き、特許重視型で意匠を軽視してきた歴史的背景がある。すなわち意匠は少しデザインを変えれば意匠権侵害にならないため、模倣品対策としては特許又は商標の方が効果的であると考えられていた。しかしながら、税関対策や後進国の模倣対策として意匠権の重要性が認識されてきたのである。特に意匠は、出願戦略(部分意匠、関連意匠等の活用戦略)によって意匠の保護範囲を広くかつ有効に得られることに気付いたのである。
4.今後の意匠の有効な活用戦略
特許重視の企業や知財担当、さらには弁理士では意匠の出願は可能であるが、意匠権の有効活用を前提とした出願前の意匠戦略には不適任である。意匠は、意匠のプロがその意匠(デザイン)を如何に保護し、独占するかを事前に検討(意匠開発会議)し、その検討結果に基づき、国内外に出願すべきである。むろんその際は、特許や商標を含めた知財ミックスを意識して出願戦略を考えることが重要で、そのためには知財のプロの戦略家(コーディネーター)が必要不可欠である。特許と意匠では思想が大きく異なる。
本年度はぜひとも意匠の戦略家を活用すべきで、そのためにも社内の人材育成と外部弁理士(意匠のプロ)を有効活用すべきである。