1.はじめに
最近の緊急事態宣言下において、各企業はより一層在宅勤務形態になっている。特に大手企業の知財部はテレワーク推奨により多くの知財部員が在宅勤務になっている。このような状況下においては、時間的余裕がある一方、開発部や事業部とのコミュニケーションがリモートとなるため、十分な意見聴取や意見交換が行えない等、知財活動(例えばリエゾン活動等)に支障が生じているのも事実である。
このようなコロナ禍は本年度も継続するであろうことから、知財業務を見直し、「何をすべきか」や「何を重点課題とすべきか」を私なりに考察した結果、下記の点を重点課題として提案する。
2.発明,意匠の創作とリエゾン活動(知財部発信活動)
従来のような勤務型では、容易に研究所や開発部に入り込みリエゾン活動を行っていたが、これが困難な現状下においては、知財部員が積極的に開発部等にリモートやメールで発信するヒアリング発信活動が必要である。
コロナ禍において、昨年度から特許・意匠・商標の国内出願が減少化傾向にあるが、自らの企業として積極的に発明発掘活動をリモート等で行うべきで、そのキーワードは「選択」と「集中」にある。
3.市場の商品等の監視体制の強化
(1)自社商品と他社権利との抵触(リスク回避)
時間があるテレワーク下においては、ネット等において市場における自社商品や自社技術を精査し、他社権利との関係を調査し、他人の障害権利を侵害していないか検証することが重要。
(2)他社商品が自社権利の侵害成否の監視(権利活用)
ネット等において、市場で販売されている他社商品が自社の権利を侵害していないか否かの調査の重要性。
4.知財紛争の多発化
各社とも知財部員がテレワークによって時間的余裕ができたことが要因となって、自宅で上記3(1),(2)を検証・調査することが多くなったため、メーカーや販売業者に権利者から産業財産権の侵害警告や不正競争防止法違反であるとの警告が多発傾向にある。さらに、権利者側は市場の商品について侵害警告や不競法違反であるとの警告を積極的に行う傾向がある。
上記によって知財紛争が多発傾向となり、私共サン・グループ所属のネットスに侵害性調査依頼が急増している他、藤本パートナーズに侵害成否判断や不競法違反か否かの判断の依頼も急増している。
5.自社の産業財産権の棚卸
時間的余裕があるコロナ禍において、自社保有の内外国の産業財産権が実施されているか否かを含め有効活用の有・無を検証すべきである。実施化していない権利等はこの際、事業との関係で無駄がないか検証して、無用な権利を放棄する等棚卸する必要がある。
6.今後の知財戦略の変容
基本は権利化であるが、何のために権利化するのか、経営や事業,M&A,新規事業等経営環境を先読みして有効な権利を獲得すべく集中化すべきである。一方、保有権利を見直し有効活用にシフトすべきである。
サン・グループには、各企業から上記観点からの出願依頼や調査,鑑定,紛争並びに権利の価値評価等の相談が多くなっている。