1.事件の経緯
藤本パートナーズの依頼人が所有する2件の特許権について、無効審判が請求されたが、いずれの無効審判事件(無効2018-800027号事件と無効2018-800032号事件)においても、「本件無効審判請求は、成り立たない。」との審決がなされた。
これに対し、無効審判請求人がいずれの審決も不服としてその取消しを求める審決取消訴訟を知財高裁に提起したのである。しかしながら、いずれの審決取消請求事件(平成31年(行ケ)第10046号事件と平成31年(行ケ)第10047号事件)においても「原告の請求を棄却する。」との判決が令和2年7月22日に言渡されたのである。
2.平成31年(行ケ)第10046号事件
本事件においては、原告は取消事由1として「甲1を主引例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り」,取消事由2として「甲3を主引例とする本件発明の進歩性の判断の誤り」,取消事由3として「分割要件違反による甲4を主引例とする本件発明の新規性及び進歩性の判断の誤り」を主張したのである。
特に本件においては、当職らは取消事由3の分割要件違反についての裁判所の判断に注目したのであるが、「上記課題との関係においては,回路遮断器1を取付板2に平行にスライドさせたときに,両者の間に鉛直方向の動きを規制する嵌合が形成されるものであれば足り,例えば,爪部が回路遮断器に,凹部が取付板に設けた態様の嵌合であっても,鉛直方向の動きを規制する効果を奏することを十分に理解できるものと認められる。したがって,取付板2,回路遮断器1のどちらが爪部又は凹部かということ及び嵌合の具体的な態様は,上記の課題解決に直接関係するものではないというべきである。」,「従って,本件発明の構成要件Aの構成は,原出願の当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内のものと認められる。」と判示したのである。
このことから明らかなように発明の課題解決とその手段との関係が如何に重要であるかが教唆される判決である。
3.平成31年(行ケ)第10047号事件
本件では、審決における相違点4の容易想到性の判断(1)及び(2)の誤りの有無について審決の妥当性が争点となった事件である。裁判所は、本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)には誤りがあると判示した。
一方、相違点4の容易想到性の判断(2)の誤りの有無については下記のように判断した。
「当業者が,甲1発明において,甲2発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持できる構造)の構成を適用することを検討しようとしたとしても,具体的にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできないというべきであるから,結局,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する動機付けがあるものと認めることはできない。この点に関し,原告は,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する具体例として,別紙原告主張図面の図1ないし5で示した構成が考えられる旨主張するが,板ばねや分岐開閉器のような小さな部材にさらに操作用取手や突起等を設け,その精度を保つ構造とすることを想起することが容易であったものとは考え難い。以上によれば,甲1発明における板ばねに係る構成部分に,甲2に記載された発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用する動機付けがあるものと認めることはできないから,本件審決における相違点4の容易想到性(2)の判断に誤りはない。」と判示した。
以上、本件事件の判示からすれば、甲発明の構成や作用を本件発明と対比検討し、動機付けがあるか否かが重要な決め手となったのである。
4.藤本パートナーズと訴訟事件
藤本パートナーズの弁理士 藤本昇は、知財関係の侵害訴訟は既に150件以上受任して経験している一方、審決取消訴訟事件はそれ以上の経験があり、藤本パートナーズは紛争や訴訟に強い事務所として評価されている。
一方、これらの侵害訴訟事件を多数経験することにより、特許においては特許請求の範囲の記載のあり方が如何に重要で、特に記載する文言の表現や表現方法、さらにはこれらの文言に対応する実施例の記載のあり方等が特許権の生命線であることに気付くべきである。
多くの弁理士や企業が権利化を目的としているが、現在の企業経営や事業にとって、「特許権が役に立つ」あるいは「経営や事業に貢献する権利か否か」が重要であって、企業にとって決して権利化することが目的ではないのである。意匠権についても同様で意匠を登録するのが目的ではなく、如何に企業活動に有効で価値ある権利かが重要である。
特許も意匠も上記のような価値ある権利化を目指すには侵害訴訟を経験して訴訟事件では何が争点となるか自ら体験することが如何に重要であるかを知るべきである。そのためには、特許も意匠も出願前の戦略が全てであり、その戦略会議で発明や意匠の本質を知り、そのうえで出願戦略を検討すべきである。
正に知財戦略(権利化を含め)は、「頭脳を使う」ことである。