1.企業の権利化の意義とその変遷
1970年代~2008年(リーマンショック)代迄は、大多数の大手企業は特許,意匠,商標等の産業財産権を獲得することを目的として、競合企業との出願件数で競争していた時代であった。このような時代は、特許の質より量で争っていたのであるが、それがリーマンショックとともにバブル経済の崩壊によって、大量出願から高質出願に変化し、量から質への転換を各企業は図ったのである。
私は、弁理士になった当時(1970年)から「知的財産は企業のビジネスに役立たないと意義がない」と一貫して主張しその業務を行ってきたが、正に企業もこのことにやっと気付き、権利化が目的ではなく企業の経営や事業に貢献する高価値化権利の獲得に方向転換したのである。
2.産業財産権の価値とその評価
特許権の生命線は、特許請求の範囲の記載によってその価値は決定されるものであるが、このことは特許権侵害訴訟を経験して初めて理解できることである。単に権利化するのは容易ではあるが、他人の模倣を排除し、独占排他権として事業を独占できる高価値化権利を獲得するには出願前の戦略が極めて重要である。単に事務的に出願するでは、権利の活用時にその価値評価として後日失敗するのである。
意匠も商標も同様で、出願する前の戦略が企業の生命線となるため、事前の十分なる検討、特に権利化後の企業戦略(事業戦略)を考えて日々行動することが重要である。
3.弁理士の使命と役割
弁理士は、知的財産の専門家である。専門家(プロ)である以上、依頼者の利益代表として業務を遂行することが使命である。しかるに、未だに出願代行業者や事務代行業者のような弁理士も数多く存在するが、これらの者は企業の経営や事業とは無関係に単に出願して権利化することが弁理士業であると認識しているようである。弁理士は国家資格であり、国から期待されている高度な知財のプロとして、さらには企業の経営や事業戦略を考えて出願,権利化を図るべきなのである。そのためには、企業担当者と十分なコミュニケーションが必要であるとともに発明や意匠のバリエーションを考え指導,検討したうえで高価値化権利を獲得すべきを役割と考えるべきである。
最近のAI等を活用することも重要であるが、一方で弁理士がネット上で商標出願を受任して出願するような業務は、依頼者との面談もすることなく一方的に受任しているが、このような弁理士業務のあり方は、依頼者のブランド戦略や商標の使用等について面談して確認したうえで出願受任する本来の弁理士業務とは到底言えないものであり、私はこのような弁理士が年間数千件出願している現状に弁理士としての「士」「サムライ」の本質を失った金儲け主義的な弁理士が出現していることに弁理士の質の低下を感じてならないのである。
「弁理士の使命とは何か」「弁理士業とは何か」「弁理士の業務の本質とは何か」を憂うのである。
私の信念は、弁理士として依頼者に「何をすべきか」「何ができるか」を常に考え行動することにある。今後も弁理士である以上、この信念をもって依頼者のために行動したいものである。これによって依頼者から「感謝」されることが私の「夢」である。