1.はじめに
日本国内における産業財産権(特許・実用新案・意匠・商標)に関する侵害訴訟事件の件数は、大きく増加する傾向にはないが、侵害紛争は多発傾向にある。
侵害紛争が発生した場合に当事者間で和解する傾向が国内の場合多く見られるが、一方和解不成立の場合には侵害訴訟が提起されるケースも少なくはない。
2.侵害訴訟における裁判所の審理
侵害訴訟が提起された場合(大阪地裁又は東京地裁が管轄)に裁判所は、計画審理に基づき訴訟を進行するが、第1回口頭弁論時に侵害者側に対し権利の無効を主張するか否か確認するケースが通常である。
裁判所が無効主張を確認するのは、特許法104条の3(権利行使の制限規定)に、「特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定されているからである。
すなわち、侵害訴訟において裁判所が無効にされるべきか否かを独自に判断できるため、特許庁に無効審判が請求されているか否かとは関係なく侵害者側(被告)に対し最初に無効の主張をするか否か確認するのである。無効の主張をする場合には、通常侵害性(充足論)より先に無効主張をするように指導する。
私が経験している侵害訴訟(現在迄、受任件数150件,現在継続中5件)において、多くの事件では無効の抗弁がなされる。
3.権利者の事前対策
権利者側としては、訴訟提起すると無効の抗弁が被告からなされることを前提と考え、訴訟提起前に事前に無効資料調査を行うことも重要である。特に明白な無効理由がないか否かの調査。
例えば、新規性による無効の出張がなされないよう少なくとも同一の公知技術や公知意匠調査は必要と考える。
4.侵害者(被告)側の事前対策
訴訟が提起される前に通常は警告される等の紛争が発生していると考えられるので、この種の侵害訴訟が発生した場合には直ちに公知資料調査(国内外)を徹底的に行うべきである。訴訟が提起されてから調査をするには日数を要するため、裁判所の審理に悪影響を与える場合があるので要注意。
5.無効の抗弁と無効の可否判断
裁判所において無効の抗弁をするには、事前に公知資料の検証と無効の可否判断をその分野に強い弁理士に依頼して無効の可能性を検討又は主張すべきである。無効か否か、特許分野では進歩性や36条違反、意匠分野では類否又は創作性になるが、決してその判断は容易でない場合がある他、権利者側が反論するため、それに耐えられる論理的主張を行うことが重要である。
時には、権利者側として無効の可能性があると判断するならば、訂正審判を訴訟進行中に行うことも一手段である。むろん訂正した特許請求の範囲に被告製品が含まれることを前提としての訂正でなければならないことは理の当然である。
意匠には訂正審判がないため、要注意。
いずれにしても特許権や意匠権の侵害訴訟においては、無効の抗弁がなされるのが通常であるため、これを予測して権利者及び侵害者双方はその事前対策を行うことが重要であるため、この種の知財訴訟や知財紛争は、企業リスクやコンプライアンス等の観点からも企業としての知財対策は重要である。
その際は知財訴訟等を経験している実力ある弁理士に事前に相談することも重要である。単に権利化のみしか経験のない弁理士では侵害訴訟等への対応が十分でないからである。