1.2019年3月1日 閣議決定
特許法の一部改正と意匠法の一部改正についての法律案が閣議決定され、現在開会中の通常国会に提出されます。
2.本法律案の趣旨
デジタル革命により業種の垣根が崩れ、オープンイノベーションが進む中、中小・ベンチャー企業等が優れた技術を活かして飛躍するチャンスが拡大するとともに、優良な顧客体験が競争力の源泉となってきております。
このような変化を踏まえて、特許等の権利によって、紛争が起きても、大切な技術等を十分に守れるよう、産業財産権に関する訴訟制度を改善するとともに、デジタル技術を活用したデザインの保護や、ブランド構築等のため、意匠制度等を強化することが法改正の目的です。
3.特許法の一部改正要項
(1)中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)の創設
特許権侵害の可能性がある場合、中立な技術専門家が、被疑侵害者の工場等に立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書を提出する制度を創設する。
(2)損害賠償額算定方法の見直し
・侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分について、侵害者にライセンスをしたものとみなして、損害賠償を請求できることとする。
・ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。
※(2)については実用新案法、意匠法及び商標法において同旨の改正を実施します。
上記法改正の内容の(1)の被疑侵害者の工場等に立ち入り特許権の侵害立証に必要な調査を行う制度は、従来なかったため、これが特許権者にとって侵害立証が容易となる可能性があります。
特に製造方法等の方法特許やビジネスモデル特許については効果的であると考えられます。但し実際はその運用が具体的にスタートしないとどの程度まで立ち入り調査可能か疑問な点もあります。
4.意匠法の一部改正
(1)保護対象の拡充
物品に記録・表示されていない画像や、建築物の外観・内装のデザインを、新たに意匠法の保護対象とする。
(2)関連意匠制度※の見直し
※自己の出願した意匠又は自己の登録意匠(本意匠)に類似する意匠の登録を認める制度
・関連意匠の出願可能期間を、本意匠の登録の公表日まで(8か月程度)から、本意匠の出願日から10年以内までに延長する。
・関連意匠にのみ類似する意匠の登録を認める。
(3)意匠権の存続期間の変更
「登録日から20年」から「出願日から25年」に変更する。
(4)意匠登録出願手続の簡素化
・複数の意匠の一括出願を認める。
・物品の名称を柔軟に記載できることとするため、物品の区分を廃止する。
(5)間接侵害※規定の拡充
※侵害を誘発する蓋然性が極めて高い予備的・幇助的行為を侵害とみなす制度
「その物品等がその意匠の実施に用いられることを知っていること」等の主観的要素を規定することにより、取り締まりを回避する目的で侵害品を構成部品に分割して製造・輸入等する行為を取り締まれるようにする。
上記意匠法の改正については、極めて企業実務上重要な改正となり、実務に大きな影響を与えますので要注意です。
①画像意匠の改正内容
a.操作画像や表示画像については、画像が物品(又はこれと一体として用いられる物品)に記録・表示されているかどうかにかかわらず保護対象とする。
b.画像意匠の権利範囲について、その画像が関連する機器等の機能により、一定の限定がかかるようにすることが考えられる。すなわち、画像意匠の出願に際し、画像の用途が分かるように記載させることにより、機器等の機能と画像との関係について確認することが考えられる。
c.現行法では、意匠の実施行為は意匠に係る物品に着目して、その製造、使用、譲渡等を実施行為と規定しているが、物品に記録・表示されているかどうかにかかわらず画像意匠を保護することとした場合、画像意匠の実施行為についても、新たに規定を設けることが必要である。
例えば、意匠登録された画像がアプリに用いられる場合、当該アプリを作成する行為、ネットワークを通じて提供する行為、端末で使用する行為等がそれぞれ実施行為に含まれると考えられる。
②空間デザインの保護
現行意匠法の保護対象である「物品」(動産)に加え、「建築物」(不動産)も意匠の保護対象とされます。
内装については、一意匠一出願の原則の例外として、家具や什器等の複数の物品等の組合せや配置、壁や床等の装飾等により構成される内装が、全体として統一的な美感を起こさせるような場合に限り、一意匠として意匠登録を認めることとし、その保護の拡充を図ることになり、内装意匠の保護対象とする施設については、上記のニーズも踏まえ、店舗等に限定することなく、オフィスの内装等も含め幅広く保護対象とすることが適当であります。
③関連意匠の改正内容
・現行法
①本意匠の意匠公報発行まで(約8か月)関連意匠の出願が可能。
②関連意匠にのみ類似する意匠の登録は不可。
・課題
①同一のコンセプトに基づき、長期間にわたってモデルチェンジを継続的に行ったデザインが保護できない。
②デザインに少しずつ改良を加えていく開発手法が増加し、関連意匠にのみ類似する意匠についても保護ニーズが生じているが保護できない。
・改正法
①本意匠の出願日から10年以内であれば関連意匠の出願が可能とする。
②関連意匠にのみ類似する意匠を登録可能とする。
本意匠の意匠権が存続している場合に限り、関連意匠の出願を認め、本意匠の出願日から10年経過前であっても、本意匠が既に消滅している場合には、関連意匠の出願を認めない。
本意匠の意匠公報発行、自社製品等を製造・販売することにより本意匠を実施している場合であっても、当該実施によって関連意匠の登録が妨げられることがない。
以上のように今回の意匠法改正は、保護対象としての画像(物品不用)と不動産が保護客体となったことでこの分野や業界にとっては非常に重要となります。また、関連意匠は実務上そのデザイン戦略として益々重視されることになります。
尚、ご不明な点や質問は、藤本パートナーズの意匠部に御連絡下さい。