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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]大阪地裁 令和3年2月18日判決・特許権侵害事件(リサイクル事業の違法性)

2021年03月09日

1.本件事件の概要

 本件は、私共依頼企業が薬剤分包紙のリサイクル業者を提訴し、私共が代理人として関与した事件で、本件は控訴されなかったため確定した。これによって私共依頼企業である特許権者側が勝訴した。

 本件特許発明の概要は、原告である当方の依頼企業が薬剤分包装置に使用される分包紙を紙管に巻きつけて使用される分包紙ロールの特許である。該分包紙ロールは、薬剤分包紙装置(原告製品)を購入した薬局等にて分包紙が使用されると紙管のみとなるため、該紙管を回収して原告が新しい分包紙を巻きつけて薬局等に再販売するものである。

 しかるにリサイクル業者である被告は、自ら製作した分包紙を薬局等に販売して該分包紙を薬局等が使用済の紙管に巻きつけ得るようにしたものである。被告の分包紙を紙管に巻き回した分包紙ロール(一体化製品という)がイ号物件である。

2.本件事件の争点

(1)一体化製品は、本件発明の技術的範囲に属するか否か

(2)被告製品(分包紙)は、一体化製品の生産に「のみ」用いる物か否か

(3)間接侵害(特許法101条1号)の成否及び特許権消尽の可否

(4)本件特許は無効にされるべきものか否か

(5)損害額

3.本件発明の技術的範囲の属否

(1)本件発明の構成要件Bの充足性

 該構成要件Bは、「紙管に巻き回される分包紙」との記載要件であるが、被告らは該分包紙は構成要件Cとの関係で特定された分包紙でなければならないと主張。
 しかるに裁判所は、構成要件Bは文言通り解釈すべきであって被告の主張を認めなかった。

(2)本件の構成要件Cの充足性

 被告らは、Cの複数個の磁石の全てが同時に検出されなければ構成要件C((紙)管は、軸方向一端側と他端側とに磁気検出手段で検出されるための磁石が複数個設けられ、一端側と他端側との磁石の取付角度が異なる)を充足しない旨を主張。
 しかるに裁判所は、複数の磁石を全て同時に検出するか、一端側又は他端側のいずれかの磁石のみを検出するかは本件発明の技術的範囲の属否に無関係であるとして被告の主張を認めなかった。

(3)以上の結果、一体化製品は本件発明の技術的範囲に属すると判示した。

4.被告製品は、一体化製品の生産に「のみ」用いるものか否か

 被告製品は被告装置に使用される、並びに第三者の分包装置に使用されるため、「のみ」の要件を具備しないと被告が主張したが、該主張に対し裁判所は、被告装置は紛争の顕在化後にごく少数流通に置かれたにすぎず、また第三者装置に使用するとの主張は現実的ではないとの理由で被告製品は一体化製品として使用する以外の用途は実質的にないと判示し、「のみ」の要件を具備すると判断した。

5.間接侵害の成否と消尽の法理

(1)被告製品は、一体化製品の生産にのみ用いられる物であることから特許法101条1号の間接侵害に当たると判示した。

(2)被告は、本件発明の本質は紙管部分にあるから、分包紙の交換は製品としての同一性を保ったまま通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから、本件特許権は消尽している以上権利行使することができないと主張(消尽の法理)。
 これに対し原告は、使用済みの紙管については原告が所有権を留保しており、一体化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして、消尽を否定した。
 これに対し裁判所は、「一体化製品を利用するためには、利用者は、使用済み紙管の外周に輪ゴムを巻いた上で、これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが、これは、使用済み紙管を一体化製品をして使用し得るよう、一部改造することにほかならない。そうすると、分包紙ロールは、分包紙を費消した時点で、製品としての効用をいったん喪失すると解するのが相当であり、使用済みの紙管を被告製品と合わせ一体化製品を作出する行為は、当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たるというべきであり、消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。」と判示した。

 「原告は、利用者との合意により、使用済み紙管の所有権は原告に留保されていると主張するところ、証拠によっても、使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにとどまり、利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認められないが、前記イで検討したところによれば、使用済み紙管の所有権の所在は、上記結論を左右するものではない。」と判示し、所有権留保と新たな製造に該当するか否かは直接関係しないと判断した。

6.無効の可否判断

 無効理由として、被告は、①乙4を主引側とする進歩性欠如,②乙7を主引側とする進歩性欠如,③サポート要件違反,④明確性要件違反を理由として主張したがいずれの理由も認められず、本件特許は無効にされるべきものとは認められないと判断した。

7.原告の損害額

 特許法102条2項の侵害者利益を損害として主張したところ、被告は利益はゼロであると反論したが、裁判所は被告の売上金額及び控除すべき費用を算定し、相当な損害額を認定した。

8.リサイクル事業と違法性

 リサイクル事業は最近活況化傾向にあるが、特許権等産業財産権侵害になり得る場合があるので要注意である。特に特許権・意匠権等の消尽の判断については、慎重に判断することを要するので、プロの弁理士・弁護士に相談すべきである。

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