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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]特許行政並びに司法への提言と意見

2017年08月10日

 第1. 特許行政への意見

1. 最近の一部審査官のレベル低下
 特許庁の審査は、厳格で均一な審査によって権利設定しなければ統一性を欠くことになるが、最近審査官の一部は、法律や技術を理解しているのかと、疑う程理解しがたい拒絶理由や拒絶査定をされることもあり、全体として以前より審査官のレベルが低下しているように思われる。

 その要因は必ずしも明白ではないが、任期付審査官の採用や特許庁の目玉政策であるスピード審査等も要因ではないかと考えられる。いずれにしても審査官のレベル低下は特許行政にとって好ましくないばかりか、出願人にとっては審判請求等時間的且つ経済的ロスとなるのである。

2. 調査機関の調査レベルと権利の不安定化
 前記のとおり知的財産の変貌によって企業は、益々高価値な権利の獲得と武器化戦略に傾注する傾向にあるが、その際活用する権利が、実際の特許権侵害訴訟において、無効のおそれがあると認定されたり、あるいは無効とされるケースが実に30%前後もあるのが現実である。

 これでは、権利者が安心して権利行使できなくなり、現に権利行使直前に再度公知資料調査をする企業すら出現しているのである。
 このような状況では、何のために高い審査請求料を支払って審査していただくのか、審査自体の信頼性の低下を招くことになる。
 特に無効資料が日本国内の公報である場合には最悪である。

 特許庁の審査の早期化も重要であるが、出願人(権利者)にとって重要なことは、「早期化」よりも「権利の安定化」にある。
特許庁は、審査機関と調査機関を一体化して調査能力と審査能力の両者を向上すべきである。

3. 特許権と無効率

 特許権者が権利行使の一環として警告書を発すると、相手方から必ずと言ってよい程無効の抗弁がなされたり、あるいは特許権侵害訴訟の第1回期日に裁判所から被告に「無効の主張をされますか」との問いかけがある場合がある。

 このこと自体、日本で特許権が無効とされるケースが数多くあるが故である。現実には無効を理由に権利者が敗訴するケース(過去の判決では35%が無効を理由に敗訴)が多く、これでは知的財産権自体の信頼性を欠くことになり権利化する意義すら喪失することになるのである。

 特に無効の原因が、公然実施である場合等審査官が知り得ることができない理由なら納得できるが、公報類、特に日本の公報が引用されて無効化されるケースを経験すると調査や審査の信頼性に疑問を抱かざるを得ない。

特許権侵害訴訟における特許権者の敗訴原因

(平成25年度 特許庁産業財産権制度問題調査報告書 引用)

4. 小括
 特許庁には、今後、審査官と調査機関のレベル向上によって、安易に無効にされない安定した権利を付与されることを期待する。

第2. 司法に対する意見

1. 特許法104条の3の規定の廃止又は修正

(1)前記のように特許権や意匠権の侵害訴訟では、第1回期日に裁判所から「無効の主張をされますか」と問われる場合があるが、その理由は特許法104条の3の規定、すなわち無効のおそれと権利行使の制限規定の存在にある。
この規定については従来から見直し論がでているが、廃止又は修正すべきである。
この規定の結果、裁判所ではケースによって無効か否かの審理に大半の時間を要し、本来裁判所の目的である侵害成否の判断すら行われない場合もあり得る。
あるいは侵害成否の判断をしたうえで権利範囲に属すると判断しながら無効であると結論付ける判決もある。

(2)しかも無効理由が明白とはいえない、進歩性(特許法29条2項)や意匠の創作性(意匠法3条2項)についても裁判所が審理・判断しているが、この判断は極めて技術的かつ専門的であるため、これを裁判所が判断するのは三権分立の精神からしても妥当ではないと考えるのである。

よって、特許法104条の3は廃止して、裁判所は侵害成否についてのみ判断し、無効については特許庁が無効審判で判断すべきである。
本来、非侵害であるならば無効の判断をする必要はないのである。侵害である場合に限り特許庁で無効の判断を短期間(例えば6ヶ月以内)に判断すべきである(現在の無効審判制度とは別に訴訟関係事件のみを取り扱う特別な無効審判制度を創設することも一案である。)。

(3) 百歩譲って、仮に該規定を残すならば新規性を欠く等明白な無効理由がある場合にのみ権利行使を制限する規定に修正すべきである。

2. 損害額の認定と寄与度

(1) 日本の知的財産権の侵害訴訟における判決による損害額の認定は、米国等に比し低額であることは従来から問題視され、米国企業からは「日本では損害訴訟を提起されても恐れることはない」とまで言わしめているのである。

(2) 私の長い経験からすれば、特許法102条の規定により損害額が推定されても、さらに裁判所はその損害額に対し特許権の寄与度を考慮して、損害額を認定しているのが現状である。
しかるに、この「寄与度」なる魔物は何ら法文上の根拠がない故に問題で、時には寄与度が10%以下、20%以下であると判断され、その結果推定損害額が大幅に減額されるケースがある。
特許権等の権利が侵害され、その結果損害が発生しているにもかかわらず権利の寄与度(売上に対する貢献度)を考慮して減額することには納得できない。
しかも、その減額事由となる権利の寄与度が時の裁判官によって左右される場合があり、極めて納得できない指標である。

(3) 折角特許法102条の規定があるにもかかわらず、この規定の存在価値すら抹殺することとなり、日本のプロパテント化を阻害する要因になっていると思う。

3. 小括
 今後、益々各国が保護主義化する世界の趨勢の中で、日本が権利者保護あるいはプロパテント強化の観点から法改正等をしなければ、それこそ日本における知的財産権の獲得や活用に魅力がなくなるのである。

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