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弁理士藤本昇のコラム

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[コラム]特許権侵害と無効の抗弁(特許法104条の3)

2014年10月08日

1.特許法104条の3

 特許法104条の3には、「特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定されている。いわゆる特許権者の権利行使の制限規定である。

 しかるに、特許権のみならず意匠権の侵害訴訟において、新規性による明白な無効事由がある場合は侵害裁判所において独自に無効にされるべきものと判断することは比較的容易であると考えるため、このようなケースにおいては、104条の3の規定は法的意義があると考える。

2.進歩性、創作性と無効の判断

 しかるに、本条の104条の3の規定が新設されて以降、裁判所は進歩性(特許法29条2項)、創作性(意匠法3条2項)についても無効にされるべきか否か独自に判断し、無効にされると判断して特許権者や意匠権者の権利行使を制限する判決が多く言い渡されることとなった。

 その結果、日本の特許権侵害訴訟では、非侵害ではなく無効であるとの判決により権利者が敗訴するケースが多発しているのである。しかもその無効事由が進歩性を否定する無効理由となっているのである。

3.裁判官による進歩性判断の妥当性

 侵害訴訟は、審決取消訴訟と異なり民事訴訟である以上、侵害成否の法的判断を裁判官が行うことは当然であるが、技術性の高い特許について進歩性の可否を裁判官が判断することが妥当であろうか。

 特に無効審判は特許庁の専権事項であるにもかかわらず、本規定により裁判官が進歩性の判断を行うことには異論がある。

 あくまで、特許発明や登録意匠が無効であるか否かは、特許庁の審判によって争うべきで、しかもそれに不服の場合には審決取消訴訟を提起することが可能である以上、侵害訴訟の裁判所が独自に進歩性や創作性を判断すべきではないと考える。

 このことは、権利の安定性や権利行使の法的意義、さらには特許庁の審査官や審判官の独立性とその判断の適法性の観点からも妥当でないと考える。

4.大阪地裁平成22年(ワ)18041号 特許権侵害等請求事件

 本件は、私が補佐人として関与した侵害訴訟事件であるが、本件訴訟は侵害性と無効性について争われ、特に無効性については進歩性の有無について争点となった事件である。

 本件で判決は、技術的範囲に属する(侵害性を認める)が本件特許発明は進歩性なしとして無効事由があると判示した。

 しかも本件の進歩性の判断は非常に高度な技術的判断が要求されるにもかかわらず、大阪地裁は進歩性なしと判断したが全く不当な判断である。

 本件のように侵害性を認めながら無効であるとの理由で請求を棄却するならば、今後日本において権利を獲得する意義があるのであろうか。さらには特許庁の審査や審判に信頼性を欠くことになり、出願人側や企業にとって、日本は正当なプロパテント政策を実施していない特許の後進国と批評されるのではないだろうか。

 このような観点から、再度特許法104条3の規定を見直しする必要があると痛感する今日この頃である。

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